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岡山地方裁判所 平成7年(ワ)841号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告齊藤しげ子は原告に対し、金一二五万三二六五円及びこれに対する昭和五三年四月六日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を、被告森内洋子、同清水保代、同岡田えつ子、同一井清子は原告に対し、各金三一万三三一六円及びこれに対する右同日から支払済みまで右同割合による金員を、それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  借入れ

齊藤鐵男(以下「鐵男」という)は、株式会社中国銀行(以下「中国銀行」という。)から、次のとおり金員を借り入れた。

貸付年月日 昭和五一年七月三一日

貸付金額 二五〇万円

利息 年六・二パーセント(但し、金融情勢の変化により一般に行われる程度のものに変更できる。)

弁済方法 元金

昭和五二年八月から昭和五六年七月まで毎月七日限り五万三〇〇〇円ずつ(但し、初回は九〇〇〇円)四八回払

利息

昭和五一年七月三一日を第一回とし、以後元金の約定弁済日に次回までの利息を前払する。

損害金 年一八パーセント

特約 元利金の支払を怠ったときは期限の利益を失う。

2  保証委託

原告は、前記借入債務について、鐵男から保証委託を受けたので、これを承諾し、中国銀行に対し、昭和五一年七月二八日その借入債務を保証した。

鐵男は、右の保証委託をするに当たり、原告との間で、原告が中国銀行に鐵男の前記債務を代位弁済したときは、原告に対し、その代位弁済金額及びこれに対する代位弁済した日の翌日から支払済みまで、年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨を約した。

3  期限の利益喪失

鐵男は、前記借入債務の元金については昭和五二年九月九日までに合計六万二〇〇〇円の支払をしたのみであり、利息については同年一〇月七日分までを支払ったのみであり、その後の支払を全くしなかったので、期限の利益を喪失した。

4  代位弁済

原告は、昭和五三年四月五日、中国銀行に対し、前記借入債務について鐵男に代位して元利金合計額二五〇万六五三一円(内訳 貸付残元金が二四三万八〇〇〇円、利息が六万八五三一円)を弁済した。

5  相続

鐵男は平成四年一二月二八日死亡した。被告齊藤しげ子は、鐵男の妻として、被告森内洋子、同清水保代、同岡田えつ子及び同一井清子は、鐵男の子として、それぞれ同人の債務を相続した(相続分は、被告齊藤しげ子が二分の一、被告森内洋子、同清水保代、同岡田えつ子及び同一井清子が各八分の一)。

6  よって、原告は、本件保証委託契約に基づき、被告齊藤しげ子に対し、金一二五万三二六五円及びこれに対する昭和五三年四月六日(代位弁済日の翌日)から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を、被告森内洋子、同清水保代、同岡田えつ子及び同一井清子に対し、各金三一万三三一六円及びこれに対する右同日から支払済みまで右同割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし同4は、いずれも知らない。

2  請求原因5は認める。

三  抗弁(消滅時効)

1  原告の代位弁済日の翌日である昭和五三年四月六日から五年又は一〇年が経過した。

被告らは、本件第一回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2  原告の鐵男に対する後記仮執行宣言付支払命令の確定日(昭和五七年九月九日)の翌日から一〇年が経過した。

被告らは、本件第六回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

法律効果を争う。

五  再抗弁(時効の中断)

1  原告は、本件代位弁済日(昭和五三年四月五日)の翌日から五年以内である昭和五七年七月津山簡易裁判所に対し、鐵男を債務者とする支払命令を申し立て、同年七月一九日同命令(昭和五七年(ロ)第六五三号)が発せられ、次いで、同年八月二三日仮執行宣言が付され、同年九月九日これが確定した。

2  原告は、右仮執行宣言付支払命令確定の日から一〇年以内である平成三年八月五日、同命令に基づき、岡山地方裁判所津山支部昭和五六年(ケ)第六九号不動産競売事件(債権者表敏雄、債務者林元和、物件の所有者鐵男)に配当要求をした。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1、2の各事実は認めるが、法律効果を争う。

原告が行った不動産競売事件への配当要求は、配当要求の終期後になされたものであり、差押えの効力を受けることができず、担保権者の競売手続における債権の届出に準じる効力しか有しない。したがって、原告の本件配当要求は、そもそも消滅時効の中断事由には当たらない。

七  再々抗弁(競売手続の取消し)

原告が行った不動産競売事件への配当要求は、時効中断事由のうち、「差押」(民法一四七条二号)に準じるものであり、本件競売事件は、追加予納命令に債権者が応じないことを理由に取り消された(民事執行法一四条二項)から、消滅時効中断の効力を生じない(民法一五四条)。

八  再々抗弁に対する認否

本件競売事件が、追加予納命令に債権者が応じないことを理由に取り消されたことは認めるが、法律効果を争う。

不動産競売事件が、追加予納命令に債権者が応じないことを理由に取り消された場合、競売取消しの時まで時効中断の効力が維持されると解すべきである。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因事実について

証拠(甲一ないし七)によると、請求原因1ないし同4の各事実が認められる。請求原因5の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁(消滅時効)、再抗弁(時効の中断)及び再々抗弁(競売手続の取消し)について

1  証拠(甲一)によると、鐵男の本件借入債務は、同人経営の美術店の営業資金として中国銀行から借り入れたものであることが認められ、前記一で認定した事実を併せ考えると、本件求償債務は、商人である鐵男が右借入債務のために原告に保証委託したことに基づくものであるから、商法五二二条により、原告による代位弁済日の翌日である昭和五三年四月六日から五年を経過することにより時効消滅するものである(最高裁昭和四二年一〇月六日第二小法廷判決・民集二一巻八号二〇五一頁参照)。

2  抗弁1、2の各事実は当裁判所に顕著であり、再抗弁1、2の各事実は当事者間に争いがなく、再々抗弁の事実のうち、本件競売事件が、追加予納命令に債権者が応じないことを理由に取り消されたことは、当事者間に争いがない。

3  右の各事実、証拠(甲八ないし一三、乙一、二)並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一)  別紙物件目録一ないし六記載の不動産(以下「本件不動産」という。)は、鐵男が生前所有していたところ、本件不動産につき債務者林元和に対する債権を担保するために根抵当権を設定していた表敏雄は、本件不動産の競売を申し立て(岡山地方裁判所津山支部昭和五六年(ケ)第六九号、以下「本件競売事件」という。)、同裁判所同支部(以下「執行裁判所」という。)は、昭和五六年六月三〇日不動産競売開始決定をした。そして、同年一二月二三日配当要求の終期を昭和五七年二月二二日とする配当要求の終期等の公告がなされた。

(二)  原告は、津山簡易裁判所に対し、鐵男を債務者とする本件求償債権の支払命令を申し立て、昭和五七年七月一九日同命令(昭和五七年(ロ)第六五三号)が発せられ、同年八月二三日仮執行宣言が付され、同年九月九日これが確定した。

(三)  原告は、執行裁判所に対し、右執行力のある債務名義の正本に基づいて本件競売事件の配当要求を申し立て、平成三年八月五日右申立てが受理された。

(四)  しかしながら、執行裁判所が債権者表敏雄に対して、追加予納命令を発したところ、右債権者がこれに応じなかったために、本件競売手続は平成七年七月二六日取り消され(民事執行法一四条二項)、同決定は同年八月三日確定した。

4  右認定の事実によると、原告の鐵男に対する仮執行宣言付支払命令の確定により、本件求償債権の消滅時効期間は、同確定の日の翌日から一〇年に変更されたことになる(民事訴訟法四四三条、民法一七四条ノ二)。

したがって、本件求償債権は、昭和五七年九月一〇日から一〇年を経過することにより時効で消滅するものである。

5  そこで、次に、原告が行った本件競売事件の配当要求が時効の中断事由に当たるかどうか、仮に当たるとして、その後の不動産競売手続の取消しにより中断効が生じないことになるのかどうかを検討する。

(一)  一般に、担保権の実行としての競売は、被担保債権についての強力な権利実行手段であり、担保権者が自ら競売を申し立てた場合には、被担保債権について消滅時効中断の効力を生じるものと解されるところ、本件のような、第三者の申立てにかかる担保権の実行としての不動産競売手続において、執行力のある債務名義の正本を有する債権者が適式に配当要求をした場合にもまた、同様に時効中断の効力を生じるものと解するのが相当である。

なぜならば、配当要求も右競売の申立てと同様、債権の満足を得る一手段であるし、執行裁判所は、適式な配当要求があった場合、債務者(所有者)に対しその旨を通知しなければならず(民事執行規則一七三条一項、二七条)、したがって、執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、配当要求をすることによって、債務者に対して自己の権利行使の意思を明らかにするとともに、その後の競売手続を通じて自己の有する債務名義の存在が公に確認されるに至る点において、強制競売の申立て、又は担保権者の競売の申立てに類似しており、それ故に、配当要求は、民法一四七条二号の「差押」に準じる性質をもつと解されるからである。

これに対し、被告らは、本件のように、配当要求の終期後になされた配当要求は、担保権者の競売手続における債権の届出に準じる効力しか有しないから、そもそも消滅時効の中断事由にはなり得ないと主張する。しかしながら、配当要求と債権の届出とは、本来、その目的を異にし、債務者(所有者)への通知の有無等、執行手続における取扱いに大きな相違があるから、配当要求の終期後になされた配当要求といえども、債権の届出と同視することはできない。さらに、配当要求の終期は、その終期から三か月以内に売却許可決定がなされないときは、三か月ごとに変更されることになり(民事執行法一八八条、五二条)、右終期後になされた配当要求も適法なものとなる余地があり、そのために、右終期後になされた配当要求もその旨を債務者(所有者)に通知しなければならないのであるから(民事執行規則一七三条一項、二七条)、いずれにしても、時効中断事由にあたるかどうかを、右終期の前後で区別することは相当ではない。

(二)  次に、民法一五四条によると、一旦差押えがなされても、その後、権利者の請求により、或いは法律の規定に従わないという理由で取り消されたときは、時効中断の効力を生じないことになるところ、前記3で認定した事実によると、執行裁判所が競売申立人表敏雄に対して追加予納命令を発したのに、同人がこれに応じなかったために、本件競売手続は平成七年七月二六日取り消されたのであって、結局、同人が法律の規定に従わなかったために取り消されたものであるから(民事執行法一四条一項、二項)、原告の本件配当要求を原因として一旦生じた本件求償債権の消滅時効の中断効は、執行裁判所が本件競売手続を取り消した結果、最初から効力が生じなかったことに帰すると解すべきである。

なお、右競売手続の取消しは、配当要求をした原告の与かり知らないことではあるが、原告は、執行力のある債務名義の正本に基づいて自ら二重差押をすることができるにもかかわらず(民事執行法四七条)、本件競売事件への配当要求という形で、他人の競売手続を利用して自己の債権の満足を得ようとしたのであるから、本件競売手続が取り消されることによる不利益を被ることもやむを得ないといわざるを得ない。

(三)  よって、本件では、時効中断効がないから、本件求償債権は、昭和五七年九月一〇日から一〇年を経過したことにより、時効で消滅したことになる。

三  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

一 所在 勝田郡勝北町市場字小更

地番 八六六番一

地目 田

地積 七一〇平方メートル

二 所在 勝田郡勝北町市場字小更

地番 八六六番二

地目 宅地

地積 六〇二・九八平方メートル

(鐵男の持分 八分の六)

三 所在 勝田郡勝北町市場字小更

地番 八六六番四

地目 池沼

地積 三二平方メートル

四 所在 勝田郡勝北町市場字小更

地番 八六六番五

地目 宅地

地積 四五・〇二平方メートル

(鐵男の持分 八分の六)

五 所在 勝田郡勝北町市場字小更八六六番地二

家屋番号 三番

種類 居宅

構造 木造瓦葺平家建

床面積 一四六・七七平方メートル

(鐵男の持分 八分の六)

六 所在 勝田郡勝北町市場字小更八六六番地二、八六六番地一

家屋番号 八六六番二の二

種類 居宅、倉庫

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 九三・二二平方メートル

二階 三四・八一平方メートル

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